※6月22日再入荷いたしました。
ファズの世界は(多義的に)深淵であるためか、マス向けのプロダクションで業界をリードしてきたBossは長らくファズペダルのラインナップを刷新していませんでしたが、TB-2W Tone Benderに続いて、2021年2作目となるファズペダルです。
先述の通り、ファズの世界が深淵であることは多くの人が承知のことでしょう。そうであるがゆえにBossもファズのリリースには慎重であったことが伺えますが、このFZ-1Wはあえてその世界にBossが堂々と踏み出してきたモデルということだけあり、素晴らしいクオリティです。
その自信はFZ-1Wという型番にも表れているでしょう。Bossのコンパクトエフェクターには、そのシリーズで初めての機種であったとしても慣習的に数字の“1”が使われていません(例えばDD-2、BD-2、RC-2など。)。それが新しいモデルであることを連想させるよう、あえて1よりも進んだ数字をモデル名に使用することが習慣化したことに起因しますが、このFZ-1Wは過去のどのモデルとも関連せず、全く新しいモデルとして完成されていることから、あえて数字の1を使用したモデル名となっているそうです。余談ですが、ほぼ同様の理由でOD-1X、DS-1Xなどのモデル名にもあえて数字の1が使用されています。
実際、このFZ-1Wはそのモデル名にも表れる自信が示す通り、非常にオリジナリティに溢れています。ただし、その音に過激な何かがあったり、過度にアクが強いというわけでは決してありません。音色や機能の端から端までが丁寧にデザインされており、一聴しての印象はむしろ弾きやすく聴きやすい、自然な音色に感じるでしょう。しかし私は、旨みはそのままにここまで丁寧にアク抜きされたファズを他に知りません。ヴィンテージ然としており、しっかりとファズらしい毛羽立ち方がありながら、ここまでの扱いやすさは、まさに孤高。これがFZ-1Wのオリジナリティです。
コントロールノブは3つ。音量を決めるLevel、歪み量を決めるFuzz、この2つは特に個性的な動きは見せず、どちらも他の多くのエフェクターを知っていれば不便なく使えます。Toneコントローラーは高域をカットするだけのシンプルなものではなく、高域と低域を同時に増減させます。反時計回りで高域が減り、同時に低域増え、時計回りでは高域が増え、同時に低域が減ります。Big MuffやTone Bender Mk.IIIにあるトーンコントローラーのような操作感ですが、前述の2機種のように深く大胆な範囲で効く訳ではなく、効果範囲もフィルターの特性も扱いやすい範囲に収められているように感じます。
3つのノブの中央付近にはモード切り替えスイッチがあり、V(Vintage)とM(Modern)の2種類の音色を切り替えることが可能です。Vモードでは音の潰れが強調され、ギターボリュームへの追従性が向上します。Mモードでは音量が上がり、ゲート感が減って弾きやすい感触を覚えます。ただし、ギターボリュームへの追従性はVモードの方が長けています。
このFZ-1Wの基本的な挙動はヴィンテージのFuzz Faceに似ています。Fuzzコントロールが12:00位置よりも手前の位置では深く歪まず、チリチリとしたオーバードライブのように歪み、3:00位置を越える付近からファズらしく深く太く歪み始めます。ギター
ボリュームへの追従性は非常に良く、Fuzzコントロールが4:00位置よりも手前であれば、ギターボリュームを絞るとストンと歪み量が落ち、綺麗なクリーンサウンドを作れます。Fuzzコントロールが最大のセッティングでギターボリュームを絞ると、クリーンではなく、歯切れの良いクランチサウンドとなります。まさにTelefunken社製のトランジスタを使用していた1
969〜1972年ごろのFuzz Faceの特徴と似ています。
その歪み方もやはりFuzz Faceと共通する点が多く、例えばゲートの強いMaestro FZ-1のようなものではなく、ディストーションのようにスムースなBig Muffのようなものでもありません。クリッピングダイオードで歪ませた際にあるザラつきやハッキリとしたコンプ感はなく、オーバードライブを重ねていったような、荒々しさと粒揃いの良さの両方を感じる歪み方です。ただし、最大音量はFuzz Faceと比べ物にならないほど、大きいです。
そのギターボリュームの追従感やオーバードライブ的なニュアンスから、このFZ-1Wには明らかなヴィンテージ然とした感触を覚えるのに、実際のヴィンテージファズと比べると圧倒的にクセが少ないのです。どこの帯域にも極端なディップやピークを感じず、音の潰れ具合と分離感のバランスは絶妙。こういった製品には無味乾燥と呼べる、残念ながらいわゆる器用貧乏のように感じるものも過去にありましたが、このFZ-1Wにはヴィンテージ感のある弾き心地という個性が具わっており、そこで究極の総合バランスを達成したのだと感じます。
ヴィンテージファズ的でありながら他のエフェクターとの相性も悪くなく、一般的なローインピーダンスに変換されたギター信号を入力しても大きな破綻は起きません。そして言わずもがな、ローノイズです。
こんな風に書いてしまうと完全無欠なファズペダルのように思えてしまいますが、例えば1960年代のファズにある特異的な存在感、味わい深さはこのFZ-1Wではカバーできません。他に類を見ない圧倒的な個性を求める場合もまた、このFZ-1Wの単独使用ではその要望をカバーできない可能性があります(他の機材との組み合わせ次第とも言えますが)。また、完全な製品よりも何か欠点をもった製品に惹かれてしまうことも度々あります。このFZ-1Wを買ったところとて、残念ながらファズ探求の旅は決して終わりません。
しかし、完璧なライブギアを探す場合や、最初のファズペダルとしては、このFZ-1Wが最高の選択になる可能性があると思います。ブティック系の扱いやすいファズペダルと多数比べましたが、その土俵でFZ-1Wが負けることは稀でした。オーセンティックな回路が基にありながら、ここまでヴァーサタイルな製品に仕上げたメーカーのエンジニア精神に感服です。ある意味では話題作となったTB-2W以上にBOSSの拘り、意地を感じる優れた製品です。
CULT 細川