Taku Skashtaの名前で知られる、世界的に著名な日本人ギター・ルシアー、坂下拓 氏の監修のもとに作られたオーバードライブ・ペダル。Klon Centaurが近代のオーバードライブの頂点かのように語られることも増えていますが、このTubelessがそこに名を連ねることに異論がある方はいないでしょう。最高峰のオーバードライブ・ペダルのひとつです。複数の仕様があるモデルですが、今回入荷したのは、日本での発売当時にシングルコイル向けという触れ込みであった“α tuning”となります。
増幅素子、抵抗、コンデンサーなどの基板上の部品はもちろんのこと、配線材、果てはスイッチの個体差にまで選定して作られた、まさに究極のオーバードライブ。回路は隠蔽されているために不明ですが、その隠蔽の仕方にも音色面から拘っていたとのこと。見ての通り、筐体も完全オリジナル設計のアルミダイキャスト製です。
Level、Tone、Gainの一般的なコントロールに加え、筐体側面には“Amp Matching Control”と名付けられた、オリジナルのコントローラーが装備されています。名前の通り、使用するアンプに音色をマッチさせる用途で開発されたコントロールで、倍音の調整に使われることを目的とされています。実際の使用感は回路の入力レベルの調整に近く、歪み量と音量、そして間接的に高域の存在感を変えられるコントロールです。
基本的には良くも悪くも〜〜系といったカテゴライズを感じさせない、普遍的なオーバードライブ・サウンドです。発売当時はアンプライクであるようなことも評判に含まれていましたが、むしろ一般的なアンプよりもずっと汎用性の高い音色に思えます。そういった観点ではアンプライクではないと言えますし、むしろアンプありきなのでは、とも感じます。極限まで洗練させたTS、そんな風にも捉えられるような気がしました。
歪みの質はシルキーで、オーバードライブ・ペダルとして十分な歪み量を得られますが、それでいてギター自体の音色、ダイナミクスは絶妙な塩梅で再現されます。近年のトランスペアレント系や多くのダンブル系と呼ばれるペダルよりも良い意味で存在感は控えめで、それゆえに多くのシチュエーションに合うと思われます。ここまで長々と書いてしまいましたが、実はダイナミクスやアンプとの相性などの難しいうんちくを一切抜きにして、クリーンなアンプに使うだけで十分にその魅力が誰しもに伝わる、シンプルに素晴らしいモデルだと思います。いわゆるJ-Rock的にコードを鳴らしても、フュージョンのソロノートに使っても、何ら問題なく素晴らしい音になると思います。それでありながらも奥深く、飽きさせない。これがこのモデルの真価なのではないでしょうか。
内部の基板はブラックボックス化されており、基板部が故障した際はその基板が収まった黒いプラスチック製の箱、通称“キューブ”の交換対応が代理店経由で行われていましたが、すでにブランド、代理店が存在せず、坂下拓 氏も逝去されてしまっているため、修理が承れないモデルとなります。
初期のシリアルナンバーで、2008年製。動作は良好です。本体の隅や側面に微妙な傷、裏面に擦れ、黒色のノブに塗装欠けがありますが、製作年を考えれば良好な状態です。DCジャックのスペーサーとして使われているゴムブッシュにヒビが入り始めていますが、動作には支障ありません。本体よりもレアと思われる、オリジナルのTシャツ(Mサイズ)が付属します。