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スペシャルインタビュー 5 : Sho Iwata(Noel)

HosokawaYuichiro

 

シンプルながら洗練されたそのエクステリアから受け取る印象は、一貫して優雅。
耽美的とすらも思わせる雰囲気を纏う日本のエフェクターブランド、Noel。
その全てのデザイン、製作を一手に担うのが、Sho Iwata氏である。
氏をエフェクタービルダー、メーカーと呼ぶより、エフェクターを表現の領域とする「作家」と呼ぶことが相応しいだろう。
多くの人に沿ったエフェクターよりも、自己表現としてのエフェクター製作を尊び、自身が満足するものを自身の内から生み出している製作者である。
2010年に発売された処女作“Cornet”の芸術的な造り、繊細な音色で一挙に注目を集め、現在も常に芸術性を発するエフェクターのみを作り続けているSho Iwata氏の思考に迫るインタビューである。

 

取材、写真、インタビュー:細川 雄一郎 
Photos and interviewed by Yuichiro Hosokawa 
 - 2019年 3月  Sho Iwata氏の自宅兼工房にて -

 

 

 

ーSho Iwataさんの出身地、そして現在の活動の拠点はどちらでしょうか?

 

Sho Iwata(以下、SI):出身は島根県松江市、現在住んでいるのは札幌ですね。

 

ー以前は東京にも住んでいましたよね。どのような遍歴で島根県から関東へ移り住んだのでしょうか?

 

SI:工業大学へ進学の際に関東に移り住みまして、その後は東京に12年間住んでいました。

 

ー大学ではどのような学科を専攻していたのでしょうか?

 

SI:インフォメーショングラフィクスや、サインデザインを学ぶような学科でした。駅の構内図であったり、誘導用のアイコンなどを想像してもらえると解りやすいと思います。工業大学ではあったのですが、エフェクターに関わる工学系の分野は専攻していませんでした。電子回路の部分で得たものは何もないですね(笑)。

 

ーその時に学んだことがエフェクターのデザインに役立つようなことはあるのでしょうか?

 

SI:デザイン系ということもあって、レイアウトや文字詰めという作業が必須で、違和感のない配置にし、文字の大きさをミリ単位で調整をしていくんです。このとき養われたバランス感覚がエフェクターの外観のレイアウトや、内部のパーツ配置などに活かされていると思います。

 

ーSho Iwataさん自身はどのような楽器を弾かれますか?

 

SI:元々はギターですね。

 

 

ー幼少期から青年期まで、ものづくり、エフェクター製作に繋がるような出来事や素養は何かありましたか?

 

SI:元々、造形に興味あったんです。ゴジラが好きで、造形の完成までの過程が全集に載っているんですよ。それにすごく惹かれて。素養という部分ではそういうところでしょうか。

  

ーそういったディティールを追うのが好きってことでしょうか?ディティールへの拘りがNoelのエフェクターにも現れている気がします。

 

SI:そうですね、ディティールであったり、ものづくりの過程とかそのバックボーンが気になっちゃいますね。

  

ーいつ、どんなキッカケでエフェクターを作り始めたんですか?

 

SI:ギターを弾いていて、あるバンドの音出したいとなって、機材を調べて楽器屋さんへ行くんですけど、住んでいたのが田舎なので、例えばBOSSのエフェクターが高いんですよ。解ります、これ?(笑

 

ー解りますよ(笑)。離島とかに行ってもそうですよね。

 

SI:並んでいるOD-3とかDS-1とか色褪せていたりして(笑)。そんな環境なので、品揃えなんて全然で。隣県でギリギリSmall Cloneを手に入れられる、みたいな(笑)。興味はあるんですけど触れられる環境がなくて、今みたいにYouTubeなんかもなくて。試せる場所もないので、じゃあ作ってみよう、という具合です。

 

ー具体的にいつのことだったんでしょうか?

 

SI:高校生の時ですよ。

 

ー高校生で自作!?かなり早いですね。

 

SI:あの環境だと仕方ないです(笑)。製作キットがあったのでそれを買って、なにも解らず見よう見まねでつくりました。もちろん音は出なかったですけど(笑)。それがスタートですね。

 

ーちなみに、その最初に作ったエフェクターはなんでしたか?

 

SI:クアッドOPアンプ仕様のBOSS OD-1だったと思います。当時はOD-1かSuper Hard Onを作るのが慣習だったように思います。

  

ーその後、ご自身のブランドであるNoelを立ち上げたのはおいくつの頃でしたか?

 

SI:その後、時を経て2011年の下旬、22か23歳の時ですね。

 

ーブランド名であるNoelの由来はどんなことでしょうか?

 

SI:由来は... 本当になくて、言葉の響きだけです(笑)。

 

ーえ、由来が何もないんですか!?(笑) せめて、ギャラガー?フランス語で冬??

 

SI:冬の方ですね。でも今は結局、その言葉に意識が引っ張られていますね。ギャラガーも好きですよ(笑)。

 

ーなるほど(笑)。自作を始めてからご自身のブランドを立ち上げるまでの6年ほど、その間はどんな経験を積んでいたのでしょうか?

 

SI:その間はただ単にエフェクター好きで、時々自分で作ったりするくらいで、特に今のように販売を考えたりというようなことはなく。

ブランドというものを考え出すのは、SND(※注 Shun Nokina Design=Shun Nokina氏が主催するブティックエフェクターブランド)やPhantom fx(※注 ギタリストでもある戸高賢史が主催するブティックエフェクターブランド)などと交流を持つようになってからですね。

 

▲写真左がPhantom fxの処女作“Sabbath”、右がSNDの“Redemptionist” 。

 

 

ーその時、両ブランドとはどんな交流があったのでしょうか?

 

SI:秋葉原でパーツ漁りをしたり、意味もなく秋葉原で集まったりしてましたよ(笑)。

 

ーどんなことがきっかけで交流を持つようになったのでしょうか?

 

SI:元々、戸高さんのバンドが好きで、ライブに行った時に戸高さんとエフェクターの話をしたりだとか、SNDは本人に直接エフェクターのオーダーをしていたので、その流れでですね。

 

ーその後、なにがきっかけでエフェクターブランドを立ち上げたのでしょうか?

 

SI:そんなエフェクターブランドたちと交流がある中で、自分でもなにかできるのかなと、考えるようになったんだと思います。

 

ー今ちょうど話に出たShun NokinaさんのLeqtiqueや、戸高さんのPhantom fxでもSho Iwataさんがエフェクター製作をしていたことが知られています。まず、どのような経緯で両ブランドの製作を行っていたのでしょうか?

 

SI:Leqtiqueブランドの構想、コンセプトなどは事前に聞いていて。何かやれることがあれば是非やりたいと話していて、Phanotm fxに関しては戸高さんが多忙な時に手伝いをするという感じですね。

 

 

▲Leqtiqueの裏蓋に記されたSho Iwata氏のサイン。

 

 

ーLeqtique、Phantom fxでは、具体的にどのような作業をされていたのでしょうか?

 

SI:基板へパーツの実装、組み込みですね。

 

ー設計やデザインではなく、そこにある回路を組み立てていたってことですよね。

 

SI:そうですね、製作の部分ってことですね。

 

ーそれぞれ、どれくらいの期間、製作に携わっていたのでしょうか?

 

SI:Leqtiqueは7~8年、Phantom fxは断続的にという感じです。

 

ーちなみに、Leqtiqueでは延べどれくらいの数の製作を担当されたんでしょうか?

 

SI:そうですね…数千以上。もう数は把握してないです。1000、2000という数ではないです。

 

ーそのLeqtiqueの製作をしながら、Noelを興したんですよね?

 

SI:そうです。LeqtiqueではMaestro Antique Revisedを作っていた時期だと思います。

 

ーMaestro Antique Revisedといえば、Leqtiqueの最初の製品ですから、ブランドとしてはLeqtiqueと近いくらいのキャリアがあるってことになりますよね。

 

SI:今となればそうなりますね。

 

ーNoelのエフェクターの設計、塗装など、すべてSho Iwataさんが一人でされているんですか?

 

SI:多忙な時に手伝ってもらうことはありますが、基本的に一人でやっていますよ。

 

 

 

▲Noelのエフェクターは設計、塗装、製作、全てが札幌市にあるSho Iwata氏の自宅兼工房で行われている。

 

 

 

ーエフェクターの設計に関する知識はどのようにして得たのでしょうか?

 

SI:主に本です。エフェクター設計の専門書のようなものはないので、色々な電気工作に関する古い雑誌を買って、応用できる箇所を掻い摘んで、それの繰り返しです。

 

ー塗装に関して、何か独自の拘りはありますか?

 

SI:色合いは拘ります。白や黒が多いのですが、黒でも実は青と調色していたりしますし、白も単純な白ではないんです。伝わりにくいかもしれませんが、やはり違います。

あとはCornet Revuや2015年のCornetでは塗膜を2層にして、マルチレイヤーのようなものを作ったり、その時々で色々な方法を試しています。

Cornet CULT Specialiseでは絵の具を使ってペイントしていますよ。文字通りのハンドペインティングです。

  

ー今お聞きしたような作業をすべてご自身でされているということですが、ハンドメイドということに拘りはありますか?

 

SI:ブランドを始めた当時はハンドメイドという部分に強い拘りがありました。今となっては根拠のない、何か盲信のようなものだと思いますが。

実際に自分で大量生産を行なってみると、徹底管理されて作られた工業製品の偉大さが身にして解ります。

 

ーでは、現状ハンドメイドであるNoelは、何で他社と勝負できていると思いますか?

 

SI:そういった意味ではCornetは面白いですよね。あんな作り方はファクトリーメイドでは採用されないので。やはりロットで生産となると、ラグ板で製作するような選択肢は真っ先に消えていきますから。そういった部分、自由度があるところは、ハンドメイドというか、個人ブランドの強さだと思います。Cornetなんか、パーツ屋や基板の製造会社に言われますもん、こんな作り方は時代遅れだって(笑)。でも、全てが画一的になっても面白くないと思うので、こういうブランドがあっても良いのかなと思います。ロマンですね。

  

 ▲Cornet CULT Specialiseの内部。1960年代ごろまでに作られたオーディオ機器、ラジオに多く用いられた、ラグ板と呼ばれる端子板とパーツを組み合わせた製法で作られている。言うまでもなく、手作業以外では作れない構造である。

 

 

ー本当は不思議な話ですよね、PCB基板だとロマンがないっていう感じ方が。ラグ板はロマンがあるように思えるのに。

 

SI:そうですよね。PCB基板も超機能的でロマン溢れてるんですが、ラグ板はそれともまた違う趣がありますよね。作品としての何かがそこにあるんだろうなと思っています。

 

ー確かに、作品という言葉が似合うのはPCB基板よりもラグ板ですね。PCB基板は製品という雰囲気があります。

 

SI:そういったところから外れた部分が、僕たち個人が勝負できる魅力の一つなのかなと思いますね。誰もNGを出さないので。

 

ーNG?

 

SI:例えば他の企業なら、製品を販売しようと思った時にどこかで何かが止まる可能性が高いじゃないですか。採算が合わないことだったり。そういったことがないのが個人でできる面白さなのかなと思います。

 

ー逆に、他社のもので好きなエフェクターはありますか?

 

SI:OKKOのDiabro、あとはLovepedalのEternityですね。

  

ーその理由とは?

 

SI:OKKOはもう言わずもがな、可愛いですよね。愛おしい。あのLEDもなんなんでしょうね(笑)。オープンフィールなドライブサウンドも気持ちよくて、大好きです。

Eternityはルックスで言えば初期のバーストが好きですけど、所有していたのはなぜかローがめちゃめちゃ出る個体だったので、その後にチップパーツに切り替わった後期型が好きですね。

 

 

 

▲写真左は生産初期のOKKO Diablo。「DIABLO」の文字の上にある巨大なLEDが特徴的。そして写真右は初期のLovepedal Eternity。のちに復刻もされるようになったサンバーストカラーが特徴である。

 

 

ー好きになるエフェクターの条件があるとすれば、どんなことでしょうか?

 

SI:外観のデザイン、サウンド、すべてが合わさって、際立った何かがあるものが好きなんだと思います。キャッチーな何か、というか。

 

ー先の質問に少し似ているのですが、良いエフェクターがあるとすれば、それはどんな条件を満たしたものだと思いますか?

 

SI:トータルデザインでオリジナリティがあるエフェクター。理由とか条件とかなしで一瞬で良いなと思うもの。一瞬で使い方が解るもの。それは決して使いやすいってことではなくて、むしろ使い難いくらいが良いんじゃないかな。でも使い方がすぐに解る。キャラクターがあるってことなんでしょうね。

 

 

 

 

ー処女作、“Cornet”ー 

 

 ▲左がNoel Cornet、右がそのインスピレーションの元となった1992〜93年にロシアで作られたSovtek Big Muff、通称“Civil War”。

 

ーNoelで最初に作ったエフェクターがCornetですよね。どんなものを作ろうと思って生まれたものなのでしょうか?

 

SI:まずは自分が好きなものを作ろうと思っていて。それがオーバードライブとかではなく、その時はロシア製のBig Muffでした。当時、なぜかCivil WarとArmy Greenが計8台くらい集まってきて。でも全部音が違うんですよね。クローンペダルも色々あって、それも試したんですけど、やはり全部音が違って、「じゃあCivil Warのサウンドってなに?」ってなっちゃって(笑)。

 

ーCivil Warの音があるとすれば、普通はクローンも全て同じ音になるはずですもんね。

 

SI:そう。「これがクローンです、これがCivil Warの音です」っていうのは無理があるし、作る意味も感じなかったので、だったらいろんなCivil Warの良いところを抽出して、自分の好きなものを作った方が良いと思って、できたのがCornetでした。

  

ーCivil Warからインスピレーションを受けたとはいえ、回路自体は大きく違いますよね。

 

SI:トーン回路も全く違う構成ですし、ダイオードクリッピングもない。もはや別物ですよね。

 

ーなぜ、そういった違いを設けようと思ったのでしょうか?特に、ダイオードでのクリッピングがない点は、個人的にとても興味深いです。

 

SI:差異を出そうと思ってやったのではないんです。Big Muffって一人で弾いてると最高にイカしたサウンドなのですが、バンドの中でなかなか使い難い印象があって。トーン回路の構造上、ドンシャリになる周波数帯域の兼ね合いと、2ステージで行われるダイオードクリッピングが要因だと考えたんです。ダイオードでハードクリップされていているRATでも同じことを感じていて、それでCornetでクリップするレベルを段階的に上げてテストしていったんです。結果的にクリッピングダイオードがなくても歪みが破綻しなくて、ロシア製Big Muffと比べても十分な歪み量が確保できていました。且つ、歪みにオープンフィールさが加味されて、Big Muff系としてはタッチへの反応が驚異的なレベルになったんです。

 

ートーン回路に関してはどうでしょうか?

 

SI:元々のBig Muffのトーンコントローラーのミドルがスクープされる点はどうしても個人的に使い難くて、最初はトーンコントローラーを完全に取り払ってしまったのですが、流石に実用性を考えて、低域には作用せずにトレブルをカットするコントローラーを付けました。

 

ーなるほど。ラグ板であったりタレットボードであったりを使ったNoelのエフェクターの構造は非常に緻密というか、実際にNoelのエフェクターを分解してみると機械式の時計のようにすべてのパーツが噛み合ってやっと作られているような感覚を覚えるのですが、そういった作りにはどんな拘り、意図があるのでしょうか?

 

SI:個人的にはシンプルな作りだなと思っています(笑)。

ラグ板やタレットボードって、本当に制約が多いんですよ。収められる端子の数は決まっていますし、筐体内部のスペースも決まっています。そういった制約の中で決まった回路を破綻しないように収める。設計段階でちゃんと考えないといけないですよね。その結果、組み上げる順序が決まった緻密な構造になるんだと思います。設計毎にトリッキーな要素が増えていっていると思います(笑)。

 

ー毎回、自分が設けている制約が厳しいゆえ、それをクリアするにはトリッキーなことをしなければならない、ということでしょうか?

 

SI:そうなんです。都度都度、トリッキーなことをしないといけなかった。Corntet Revuの次に出たVictoireなんて一見シンプルですけど、設計段階では難産でしたよ。なんど諦めようと思ったか。シンプルにしていくことって、本当に難しいです。

 

▲COMS素子を利用したディストーションペダル、Noel Victoireの基板部。60年代のイギリス製ギターアンプに多く見られるタレットボードのアイディアとPCBを融合させたNoelオリジナルの基板と、ポットと周辺回路をまとめた基板の2層構造になっている。

 

 

 

ーということは、やはりエフェクターを作る時というのは、まずそのデザイン、構造のアイディアがあって、その優先度が高いってことでしょうか?

 

SI:そうですね。なんとしてもそれでやりたいというものがあります。

 

ー今後のNoel製品もそうなっていくのでしょうか?

 

SI :そうですね。Noelの場合、そこの優先度が高いです。そこから制約を決めて進めていく。エフェクターに限らず、何かを作る時ってコンセプトを立てて、制約を作ってから話を進めていきますよね。なんでも自由だとデザインなんてできないし、制約のないものって面白くないと思います。

 

ーそもそも、そういった緻密な作業が得意なんでしょうか?

 

SI:いえいえ、元々は全然そんなことないですよ。手先は器用じゃないですし。でも、個人的には緻密だとも思っていないんですよ。そういったやり方でやるって決めてしまえば、他と変わりません。そのやり方を決めるのは得意かもしれませんが。

 

ーとはいえ、Noelの過去の製品は誰でもできる方法で楽に作ってやろう、って感じではないですよね。それに、Noelは配線の取り回し、配線材の曲げ方一つを取ってみても明らかに綺麗です。それに近いことをしようとしていながら、できていないブランドも知っています。つまりはやろうと思ってもできないことなのだと思うのですが、そういった部分はSho Iwataさんの手腕や特性ではないのでしょうか?

 

SI:誰でも作れるような構造を目指してはいるんですよ、一応。ここでこういう風に折って、とか決まっているので、例えばCornetは手順通り組み込んでいけばすんなり作れるようになっているはずです。

 配線の取り回しはそうですね... Leqtiqueですね。「この配線材を綺麗に曲げられなければいけないんだ、ミスができないんだ」というプレッシャーに鍛えられましたね(笑)。

 

▲Sho Iwata氏によって製作されたLeqtiqueエフェクターの内部。細部に宿る業が美しい。

 

 

ーその厳しいLeqtiqueの現場では具体的にどんなことを得られて、今に活かせていると思いますか?

 

SI:スイッチ、ジャックの周辺など、構造ごとに順を追って製作していくんですけど、その段階で適当にやると綺麗に仕上がらない、何かが乱れると全てが破綻する、ということですね。パーツのリード(足)を曲げるところ、準備、一つ一つを丁寧にやれば、絶対に綺麗になります。当たり前の話じゃないですか?シンプルなことなんですよ。誰でもできるはず、なんですけどね。シンプルなことって難しいですよね。

 

ー確かに“はず”、ですね(笑)。続いてパーツのことについてです。Noelのエフェクターに使われているパーツ、Mallory 150M(コンデンサー)だったり、機種によっては抵抗の定格がより大きな1/2Wだったり、Cornetに使われているトランジスタ“2N5133”が異なるメーカーのもの2種類を混ぜて使われていたりだとか、パーツの選択に強い拘りがあるように見えるのですが、具体的にどのようにして使用するパーツを決めているんでしょうか?

 

SI:例えばCornetでいうと、ラグ板を使った構造なので、ラディアルタイプ(※注 パーツの片一面にリードがある形式のパーツ)のコンデンサは使えないんです。アキシャルタイプのコンデンサーしか使えないんですよ。そこから入手性や音を考慮してMallory 150Mになったという感じですね。2N5133は元々1種類だけだったんですが、あの2種類を使わないとCornetの音にならないんです。実はMotorola製の2N5133がポイントだったりします。

 

ーカーボンコンポジション抵抗はどうでしょうか?Noelのエフェクターのほとんどに使われていますよね?

 

SI:そうですね。音に有機的な感じがして好きなんです。ハイが少し落ちていくところとか好みなので使っています。

 

ーそういったパーツを選んでいる基準というと、どんなことなのでしょうか?

 

SI:まず入手性はありますね。基本的に量産されていてストックがあるもの。Allen Bradleyの抵抗はNOSですが、在庫は十分にあるので使っています。でも、いわゆる安くて低音質なパーツは避けるようにしてます。

 

ーNoelのすべてのデザインに共通して、何かインスピレーションの元になっているものはありますか?

 

SI:間違いなくアール・ヌーヴォーを始めとするフレンチデザイン。例えばAlphonse Muchaの絵、Émile Galléのガラス細工など。アール・ヌーヴォーは自然界の曲線をモチーフにしたデザインが特徴的ですね。当時、ジャポニズムの流行もあって、日本の文化とも親和性が非常に高く、影響も色濃いんです。そういうものに惹かれるのは逆に日本人らしいなって思います。

 

▲ガラス工芸家の兄弟、Auguste Daum、Antonin Daumの二人による1905年の作品。アール・ヌーヴォー期を象徴するデザインを具えている。

 

 

ーNoelの製品の中では、具体的にどの部分にそういった要素が現れていると思いますか?

 

SI:いろんなディティールの中にあると思うのですが、例えばずっと使っているこのアーチドトップのノブだったり、ワッシャーで高さを調整しているパーツだったり、そのレイアウト、やはり全てですね。インスピレーションがなければ確実に違う部分だと思います。工業製品が流通した頃、そういった製品の中にも芸術的な何かがあってもいいのではないか、ってところからアール・ヌーヴォーは始めってるんですよ。エフェクターの中にもそういった要素を入れられたら面白いんじゃないかなと思っていて、そういったところで影響を受けていると思います。

 

▲Cornetを始めとする、Noelのほとんどのエフェクターに採用されている、Davies Molding社製のツマミ。USA製でこそあるが、アール・ヌーヴォーに通ずる自然界の曲線を思わせるアーチを持ったデザインだという。

 

 

ーNoelのエフェクターはノブのレイアウト、塗装、LEDの高さなど、とにかく優雅ですよね。

 

SI:それはアール・ヌーヴォー期の芸術の影響かと思います。あと、Cornetはその造りがそうですね。基板でやっちゃえば良かったんですけど、もっと芸術的にできないかなと思っていて。工業製品だけどそういった要素を入れていくってことは、Cornetの造りから始まっているかもしれません。

 

ー影響を受けたエフェクターブランドはありますか?

 

SI:IbanezのPowerシリーズですね。あのシリーズの実験性、攻めた姿勢は凄いですよ。Mostortionとか、Session Manとか、Fat Catとか。

 

ーNoelのどんなところにその影響が表れていますか?また、今もその影響下にありますか?

 

SI:Etude #3(生産完了品)というエフェクターを発売した時は、まさにその影響下だったと思います。音もスタンスも外観も尖ってた(笑)。今でもたまに引っ張り出します。以前に作ったBig Muffのモディファイもかなり実験的な試みだったと思いますよ。そういう実験的なスタンスはやはり今後も真似していきたいですね。

とはいえ、影響で言えばエフェクター以外のものごとからの方が多いですね。

 

ーそれは例えばどんなことでしょうか?

 

SI:数年前に顕著だったのは、Laduréeのマカロンです。パッケージだったり、カラーリングだったり、名前だったり。影響を受けるのはそういったところですね。

 

 

▲マカロン発祥の店とされているフランスのパティスリー、Ladurée。その箱からも総合的なデザイン性の高さが窺える。

 

 

ーそのインスピレーションをどのようにしてエフェクターに落とし込むのでしょうか?

 

SI:例えば、今のNoelはモデル名がすべてフランス語なんですけど、そのフォントの選択だったり、総合的なデザインですよね。

 

ーNoelのエフェクターに共通する、一番強い拘りはどんなことだと思いますか?

 

SI:Antique et Moderne___ 温故知新ですね。

あと、拘りというか、四六時中エフェクターのことばっかり考えていると作れないんですよね、何も。何もアイデアなんか出てこなくて、やる気も起きなくて。やっぱり良いインプットがないとものづくりって無理だと思います。アイデアも枯渇しちゃいますしね。一人でやっている分、それがダイレクトに製品に繋がってしまうので、意識的に外側を向くようにしてます。

 

ーおそらく、Sho Iwataさんはエフェクターから離れていることに良い作用があるタイプのビルダーなんでしょうね。

 

SI:きっとそうなんでしょうね。結果的に離れていきました。エフェクターのことを考え過ぎた反動ですね(笑)。そんなこともあって、“ビルダー”って言葉が嫌いで。偏見かもしれないですけど、ビルダーってギターやエフェクターのことだけを常に見てるってイメージを勝手に持っていて。もちろんそれが良い音に繋がるので、素晴らしいことだと思うんですど、それだけだとダメでした、僕は。違う分野に目を向けて、咀嚼できるようにならないとダメだなと思います。

 

ーそれは具体的にどんな分野のことだったのでしょうか?

 

SI:Cornet Revuの設計時、完全に行き詰まってしまって、もう何も出てこないっていう状態になっちゃって。篭っていたらダメだと思って、Noelがテーマにしてるフランスに行っちゃえと。画家がよく拠点に活動していたMontmartreに行ったんです。きっと良いインスピレーションがあるんだろうなと思っていたら、案の定めちゃくちゃ捗りました(笑)。その場で構造からレイアウトまで全部設計できてホッとしていた帰り道、現金もカードも全て無くしてエライ目に会いましたけど(笑)。

 

その後、Victoire、Voileの時はNancy(フランス)という街に行ったんですよ、懲りずに(笑)。先ほど話に出たÉmile Galléたちが拠点を構えていた街で、設計の合間に街を彷徨いてみたり、アトリエがあった場所を見て回ったり。その道中、Tour de Franceっていう最大級自転車レースがあって、シャンゼリゼや凱旋門へ向かって60km/h以上のスピードで駆け上がっていく姿が最高に格好良いんですよ。映像で見るだけでも身震いしますよ、ホントに。で、そのテンションのままホテル戻って設計する、みたいな(笑)。そういう心が震えるような体験が良いインスピレーションになって、Noel製品の血となり肉となります。

 

 ▲Sho Iwata氏撮影 Tour de France終了後のシャンゼリゼ通り

 

あ、ただ製作は自室でやらないとダメですね。Musik Messe(ドイツで年に1度行われるヨーロッパ最大の楽器の見本市)に行った時、製作期日の問題で現地で作らないといけない状況で。でかいスーツケースに工具とか具材を全部詰め込んで持っていったんですけど、結局一回も触らず。なんでドイツにきてまでホテルに籠らなきゃいけないんだろうなって(笑)。なんかそんなことばっかりしてる20代でした(笑)。

 

ものではなく、そういった“体験”に影響を受けているんですね。

 

SI:そんなことを糧にして、ものづくりに活かしていかないとですね。エフェクターばかり見ている人には作れないものを作れているんじゃないですかね。過去にエフェクターばかりを作ってた結果、そういうところに行き着きました。こんなブランドがあってもいいですよね?

  

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