使用されるコンポーネントの継続的な入手が難しく、終売となりました。
2020年にファズペダル“MOTHER”の発表をもって、衝撃の復活を遂げた伝説のドメスティック・ブランド、Phantom fx。その新生Phantom fxの第二作目は、2008年に発表され、秒単位での完売を繰り返した衝撃のデビュー作、たったひとつノブで操る爆音ファズペダル“Sababth”の最新形態です。
▲CULTが所有する2008年製のSabbath
SabbathはPhantom fxのデビューを飾った、強烈な初期衝動を感じる轟音のファズペダルでした。コントロールは表面にある音量と音圧を操作するノブ“Volume”の1つのみで(※)、歪み量や音色は固定。Volumeコントロールがあるとはいえ、最大音量が非常に大きく、強力な自我を持ったようなペダルでした。市場に迎合せず、“自分の作りたいものを作った”のであろうと感じさせる、まさしく製品というより作品と呼ぶに相応しいペダルでしょう。
※ 内部にはバイアスを操作するトリマーがあるが、微調整程度の効果
Sabbathの根本的なコンセプトは「ファズから余計な要素を削ぎ取ることで実現した、驚異的なタッチレスポンスの速さを持ったハイゲインなディストーション/ファズ」でした。 Phantom fxの創設者の戸高賢史氏は、冗談交じりに「最短距離のBig Muff」とも語っていますが、実際に弾いてみれば的を射た見解であるようにも思えます。ギターから出力されたニュアンスがロスのないまま、爆音に歪ませられるような感覚、それがSabbathの個性であるように思います。
2石のシリコントランジスタ、そして1石のFETを使ったシンプルな回路で、ダイオードなどのクリッピング回路はなく、フィルターやコントロールポットが最小限に省かれているため、ゲインが極限的に高いながらタッチレスポンスが速いことにも納得ができます。
その後、トーンコントローラーを追加した“Sabbath Fog”、中低域の密度を増した“Sabbath Russian”、マスタードコンデンサーの音色をフィーチャーした“Sabbath Mustard”、より洗練され、全国の楽器店でも流通した“Sabbath MK2”、そしてその他のワンオフモデルを含めると、多数のバリエーションモデルが生み出されました。
CULT 細川も2012年に当時はすべての製作工程を担っていた戸高氏と直接連絡を取り、外装、使用コンポーネント、音色すべてにこだわったワンオフのSabbath Russianの製作を依頼し、長らく愛用しています。
▲CULT細川がオーダーし、ワンオフで製作されたSabbath Russian
このCULT 細川が所有する特別なSabbath Russianの音色を基に、機能面でも更なる進化を遂げた最新型のSabbath、それがBlack Gazeと名付けられた今作です。
鉄とアルミの板材を組み合わせた縦長の筐体。あえて鉄を使ったのは、必要な重量感を出すためだそうです。そこに初代Sabbathを思い起こさせる、セミグロスの漆黒の塗装。サイズはW80mm D115mm H46mm(突起含まず)で、 同じくPhatom fx MOTHERよりもわずかにコンパクトです。
内部基板はユニバーサル基板を使ったポイント・トゥ・ポイント、そして 新生Phantom fxのビルダーEgawa氏によるハンドワイヤリングによって作られています。これらの製法は非常に手間がかかり、生産効率が良いとは言えませんが、この手間のかかる一連の製法について戸高氏は「間違いなく手間がかかっている音になる」と語ります。
基本の回路はSabbathを踏襲し、定数はSabbath Russian、Sabbath Mustardの値を踏襲しています。使用されたコンポーネントはヴィンテージNOS品と、近年の透明感の強いものが適材適所に配置され、このチョイスからもPhantom fxの意図が読み取れるでしょう。
※一部のコンポーネントは予告なく変更される場合がございます。ただし、いずれも定まった仕様の音色を出すためのものであり、ダウングレードすることはありません。
内部にはTrebleを微調整するトリマーが存在し、高域を落ち着かせることができます。このTrebleトリマーも試行錯誤して練られたというコントロールであり、戸高氏の言葉を借りれば「オマケ程度にはしたくない」完成度に仕上がっています。
さらに加えて、過去のSabbathにはない、強力な機能がこのBlack Gazeには備わっています。それが入力部に構成されたピックアップシミュレーション回路です。
ファズペダルはインプット・インピーダンスが低いものが多く、そのインピーダンスのマッチング、逆にアンマッチングを利用して音作りがされていることも珍しくありません。そういった設計上の都合から、意図されていないインピーダンスの信号を入力した場合、大きく音色が変わってしまうことも殆どでした。そして、それはSabbathにとっての弱点でもあったのです。
その弱点を克服するために作られたのが、トランスを用いたピックアップシミュレーション回路です。端的に言えば、様々なインピーダンスの信号が入力されたとしてもピックアップシミュレーション回路が一定のインピーダンスに変え、Sabbathが設計通りの動作をするようになるのです。つまり、システムのどの場所にも置けるSabbathがここに完成したのです。
モデル名にある“Black Gaze”は、音楽ジャンルの“Black Metal”と“Shoegaze”を混ぜて作られた造語です。 Black Metalで聴ける重く激しいディストーションと、 Shoegazeで聴ける音の渦のようなファズ、それを複合させた音色がこのBlack Gazeのコンセプトです。
開発と検品には常にCULT 細川が特注したSabbath Russianがリファレンスに使用され、タッチレスポンスと密度が両立された、「太いのに速い音」が実現されています。歪み量はかなり高く、例えばMOTHERの比ではありません。中低域に感じる音の濃さ、同時に歪みの質からくる存在感の強さは、過去のSabbathの中でもトップクラスであるように思えます。